大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和50年(行ス)1号 決定

抗告人 北九州市教育委員会教育長 小林實

右代理人弁護士 福田玄祥

同 吉原英之

相手方 日本共産党小倉地区委員会委員長 深谷岩男

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び抗告の理由は別紙記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

抗告理由一、二について

本件の疏明資料を検討すれば、北九州市が、市政の重要課題の一つとして推進する同和対策事業を推進するにあたり、地区住民の自発的意志にもとづく自主的運動と緊密な連けいを保つ必要のあることはこれを認めることができるけれども、他方相手方が上映を企図している映画「橋のない川」一部、二部の内容は、これを観賞する者によってその評価をことにするもので、それが一般的に部落差別を助長する影響があるものと認めることはできないし、映画の上映もまた憲法によって保障される表現の自由の一であることをも考慮すれば、右映画の上映が、北九州市立市民会館の管理上支障をもたらすということはできず、また右表現の自由を制約しなければ、公共の福祉がそこなわれるものということもできない。それ故右上映が右会館の管理上支障があり、また本件執行停止決定が公共の福祉に重大な影響を及ぼすということを前提とする論旨は採用できない。

同三について

本件の疏明資料を検討すれば、相手方は、昭和五〇年三月頃から「橋のない川」の上映を計画し、その後大量の宣伝ビラ、ポスター、整理券等を作成、配布して、諸般の準備を行なってきたことが認められるところ、本件使用許可取消処分により、相手方は、右映画の上映を予定の日時である昭和五〇年六月一一日に、前記市民会館で行なうことができなくなるだけでなく、右の上映を予定の日時に他の適当な場所で行なうとか、あるいは予定日時に近接する適当な日時に行なうことも、会場設備または日時場所変更の周知徹底のための手続等の関係で著しく困難であることが窺われ、窮極において相手方が既に二ヶ月有余の以前から計画していた右映画の上映を事実上不可能に陥れるに等しいから、相手方には単に金銭賠償によって償いうる損害にとどまらず、表現の自由を阻害されることによる回復困難な損害を蒙るものというべきである。それ故論旨は排斥を免れない。

そうすると相手方の本件執行停止の申立を認容した原決定は相当で、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 生田謙二 裁判官 右田堯雄 日浦人司)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例